A Bookworm Diary

This is a diary of a woman who finds considerable pleasure in reading books.

第3話

 Dobar dan. 「こんにちは」である。どの言語でも最初の授業は、まず御挨拶からのようだ。ベオグラードに着いたアヤコが、ドゥシャンと運命的な出会いを果たす場面。二人の物語がこれからどうなるのか、まだ誰にも分からない。いつか別れはやってくるのだろう。出会って、別れて、お別れだと思ったら、再会して、また別れて、また再会して。終るようで続いていく物語が人生だ。だから、時々、無性に辛くなるけど、それはさておき、物語をはじめる最初の言葉。Dobar dan. 

 早く来すぎた。リーリャはまた遅刻だ。時間をもてあましたドゥシャンは、とりあえず何か食べようと思った。24時間営業のカフェでサンドイッチとコーヒーを注文して席につくと、目線の先に2人組の姿があった。2時間に1回にぎわう到着ロビーに比べて、朝方まで便のない出発ロビーはほとんど人気がない。電気まで消されている。がらんとした薄暗闇に2人だけで寄り添って眠る彼らが、友だちか恋人か家族かは分からない。厚手のコートの中に身体を縮こませて、首に巻いた厚手のマフラーに顔を埋めているものだから、遠目からは男か女かも判別ができなかったが、若者であることだけは分かった。きっと格安航空券で世界中を旅してまわる若者かなにかだろう。これから何十年も先の未来で、いつか2人はこの出発ロビーを思い出すのだろうか。かつての旅立ちの瞬間に一人ではなかったことの奇跡を、その後、幾度と繰り返すであろう冷たい風が心をなでる瞬間に、なにものにもかえがたい温もりとして。だから、空港ってところは好きだなとドゥシャンは思った。あと43分。リーリャは、まだ来ない。

 ドゥシャンが思弁的なのは、彼が生まれながらにして詩人であることと関係があるのかもしれない。しかし、大方は作者の想像力が勝手に物語をふくらましてしまうせいだ。しかたない、想像力とは元来そういうものだ。ちなみにサンドイッチとコーヒーを食した後、ドゥシャンはトイレに向かった。が、作者は女であり、介護・看護等に携わった経験もなければ男兄弟もいないため、どのような手際で男性が排泄するのかほとほと分からないから、ここは何も書きようがない。試みに想像力だけで男性の排泄する様子を描写してみるのも面白いかもしれない。生涯一度も女性と交わることのなかったヘンリー・ダーガーが絵に描いた少女は、股間にはペニスがついていたというから、やってみると意外となにかおもしろいものが生まれるかもしれない。それはいつかの課題としてとっておくことにして、とりあえず終った後に手を洗わない人が多いという噂だけはよく聞く。汚いと思うから洗った方がいい。さて、ドゥシャンがトイレから出て来た。

 ドゥシャンがトイレに入っている間に、ヤパンからの客人が乗っているはずの飛行機は空港に着陸していた。しかたない、時間とはそういうものだ。持て余しているかと思えば、あっという間に過ぎる。ヤパンから来る客人を、ドゥシャンは探すでもなしに見つけ出した。黒髪オカッパ頭の小柄な女性が、きょろきょろしながらスーツケーツを転がしている。ドゥシャンはどこかで見覚えがあるなと思うでもなく、日本語の授業の教科書に載っていたKOKESHIの写真を思い出して納得したが、その間に、彼女はドゥシャンを通り過ぎて白タクの運転手たちがたむろするあたりへ吸い込まれていった。ドゥシャンは急いで駆け寄り、彼女に話しかけた。 "Dobar dan. Da li ste vi Ajako?" 

 振り返ったアヤコは驚くでもなしに "Da, ja sam Ajako."と応えたが、自分の答えがなんとも無防備なものに思えたのか、眉をひそめて恐い顔を作り、さも警戒している風を演出して"Ko ste vi?"と付け加えた。ドゥシャンは答えた。"Ja sam Dušan Vuković." それを聞いて安心したのか、アヤコは "Dobar dan. Drago mi je."と笑って言った。笑うと細い目がさらに細くなって、ますますKOKESHIに似ているなあ、とついつい思弁に赴いてしまう性格から、ドゥシャンは上の空で"Dobro došli u Beograd. Kako ste?"と言った。なんだこのボーっとした人はと思いながらアヤコは"Dobro sam, hvala."と儀礼的に答えた。

 ドゥシャンの肩を勢いよく叩く者がいた。リーリャだった。走ってきたのか、ぜーぜー言っている。ドゥシャンはアヤコにリーリャを紹介した。"Ovo je Ljilja." ぜーぜー言いながら、リーリャはアヤコに言った。"Drago mi je." アヤコは応えた。"Drago mi je." ドゥシャンとアヤコは、こうして出会った。

 

 主語が ja (I), ti (you), on (he) /ona (she), mi (we), vi (pl. you), oni/one (they)のどれになるかによって、英語で言うところのbe動詞が変わる。be動詞のことはbitiと言うらしい。

ja = sam

ti = si

on/ona = je

mi = smo

vi = ste

oni/one = su

ということなので、これは全部覚えるよりほかない。ちなみにto「それ」や ovo「これ」は、on/onaと同じ je を使うらしい。「あなた」を意味する主語には ti と vi があるけれど、複数形か単数形かという区別の他に、ti の丁寧な言い方としてviを用いるようだ。目上の人や初めて会う人には vi を使ったほうがいいらしい。

 Yes か No で答える英語の疑問文を作る時、中学1年生には「とりあえず、普通の文の主語と動詞をひっくりかえして」と教えて頭に刷り込むのが第一段階ですが、セルビア語クロアチア語でも、Da (Yes) か Ne (No) で応える疑問文を作る時はひっくりかえすらしい。ひとつ違うのは、ひっくりかえすのみならず、「これは疑問文ですよ」と分かるようにDa liという目印をつける。たとえば、

Vi ste Ajako. ==> ste vi Ajako. ==> Da li ste vi Ajako? 

となる。ほかにも

Ovo je Ljilja. ==> je ovo Ljilja. ==> Da li je ovo Ljilja? 

となる。だから、

「誰なんですか?あなたは!」

「そうです、私が変なおじさんです」は、

Ko ste vi ?

Ja sam čudan čovjek.

だっふんだーーー。ということで、わけあって今年からクロアチア語セルビア語の勉強をはじめました。スクリプトから勝手に物語を作りつつ、学んだ基本の文法事項をメモしていこうと思います。ちなみにお世話になる教科書は、中島由美、野町素己著『ニューエクスプレス セルビア語クロアチア語』(2010)です。どうなることやら。

 

広告を非表示にする